甘える君は可愛い

年下ワンコはご主人様が好き

 良い子で待っていたら一か所だけ舐めさせてくれる。
 その約束の為に久世は波多を部屋で大人しく待つことにした。
 待つ間は何処に行ったのかばかりが気になってソワソワと落ち着かなかったけれど、波多が来たらそんな事どうでもよくなった。
 波多から微かにボディソープの香りがする。
 それはつい最近までお世話になっていたので知っている匂いだ。
 風呂を済ませてきたのかと、芯が熱くなった。
 いつもの匂いも好きだが、これはこれでたまらなく興奮した。
 舐める箇所をお尻にしたのは、上手くいけば挿入できるのではと、そんな下心を持って選んだ。
 まだ恋人同士ではないが、波多が気持ちを認めないだけで、久世の方からは好きだと何度も告げている。
 だが、波多にはまだ許してもらえなかった。
 そのかわりに素股でイけることになり、気持ち良くなりすぎて少し暴走してしまった。
 波多の手越しに胸を弄りながら腰をうちつければ、目を潤ませて喘ぐ姿はたまらなく可愛かった。
 前に舐めさせてもらった時は、興奮しすぎて余裕がなくて先にイってしまったが、今回は共にイけた。

 風呂に入るとバスルームに行ってしまった波多を待つ間、パンツを穿きベッドの上に胡坐をかく。
 今回は波多の手越しに触れただけだが、次は舐めるだけでなく愛撫もしてみたい。
 自分の手で触れて善がる姿を見てみたいから。
「今度はこの手で触れてみたいなぁ……」
 こんなに自分は性欲が強かったのかと思うくらいに、波多に対してはそう感じてしまう。
 もっと、深い所まで味わってみたい。
 波多の肌を手で愛撫しながら後孔を犯す。喘ぎ声をあげ、体を善がらせながら、
『あぁん、そこ、大輝のおっきいので、激しく突いて』
 と目を潤ませながら可愛く強請られて。
『気持ち良すぎて、どうにかなっちゃう』
 久世のモノをしめつけて離さない。
 そんな妄想をしていたら、下半身がじくじくとしてくる。
「あぁ、やばい、また、たっちゃいそう……」
 流石に自慰をしている所を見られたくはないのでグッと我慢をする。
 落ち着かせようと息を吸ったり吐いたりを繰り返していると、寝室のドアが開き服を着た波多が姿を現す。
「何をしているんだよ、お前」
「うわっ、波多さん!」
 驚いて、思わず枕を掴んで下半身を隠す様に置けば、波多は特に気にすることなく「帰るから」という。
「え、泊まって行かないんですか?」
 泊まっていくと思っていた。今度こそは、このベッドで一緒に朝を迎えたかったのだ。
「泊まらねぇよ。明日もまだ仕事があこの前の様な事は嫌だし」
 と波多が言う。
「そんな」
 ガッカリと肩を落とす久世に、
「お前はさっさと寝ろ。じゃ、お休み」
 頭を撫でて波多は外へと出て行った。
「波多さん」
 流石にパンツ一枚での姿では外には出れないので、波多の出て行った玄関を見つめるだけで留まる。
 波多が居なくなった瞬間、寂しくなってベッドに戻って丸くなる。
 これ以上、起きていても寂しいだけ。寝てしまうに限ると久世はそのまま目を閉じた。

※※※

 リフォームをしてシステムキッチンにしたというキッチンを目の前にし、波多はまるで主婦のような反応を見せる。
「すごく使いやすそうだな。俺の所は狭くて男二人で料理するのもきついからな。場所をかしてくれてありがとうな」
 確かに波多の所は少し狭いかもしれない。だが、密着度があって二人きりで料理をするには最高だと思う。
 だがこの料理教室の目的は自分が料理を教えてもらうだけではないのだ。
「相変わらず良い趣味の部屋だ」
「俺と波多は趣味が似ているものな」
 三木本が波多の住まいを知っていた事は、波多の所に居候させて貰っていた時に知った。
 同期で仲が良いのだから、互いの所に行き来しているのだろう。それがなんとも羨ましい。
「俺のトコも綺麗ですよ! 家具や電化製品は波多さん好みのですし。行ったり来たりもしてますから!!」
 仲良し振りをアピール、みたいな事をしてみたら、三木本が馬鹿にするようにくすっと笑い、波多は怒っていた。
「お前の部屋が綺麗なのは当たり前だろ、引っ越ししたばかりだし。それに家電も家具もお前が選ばないから俺の好みになったんだろうが!」
 それだけだと言い切ると、八潮が楽しそうに見つめていた。
「違うよね。波多君が三木本君と仲良さげなのが嫌だったんだよね」
 よしよしと頭を撫でられ、久世は甘える様に八潮に抱きつく。
「はい。波多さんと俺は相思そう――、むぐ」
「変な事を口走るな、バカ犬」
「良いじゃないの。二人はそういう関係なんでしょう?」
 そういう関係とは恋人同士という事。久世はそうなんだと頷きかけ、波多はぽかんと口を開けてかたまっていた。
「波多さん?」
「話は後にして、八潮課長は手を洗ってエプロンしてください」
 明らかに話をそらして睨まれる。そして、波多の背中を叩いて我に返す。
「ほら、米の炊き方からだろ。波多、教えてやれ。八潮課長もちゃんと見ていてくださいね」
「あ、あぁ。すまん。久世、来い」
 ぎゅっと耳を掴まれて、
「後でゆっくり、教えてもらうからな」
 と、耳をひっちぎるように指が離れた。

 一合は180cc。茶碗二杯分くらいの量なので、今回は2合炊くことになった。
「内釜に目盛があるだろ、二合だから2の所まで水をいれろ」
「はい。これで良いですか」
「あぁ。後はセットして炊飯を始めればいいだけだ。次はジャガイモの皮むきな。ピーラーを使えば簡単だから」
 と皮をむいて見せてくれる。
「なんか楽しそうですね」
「ほら、やってみ。八潮課長も見てるだけでなくやってください」
 ピーラーを握りしめたままで見ているだけの八潮に声を掛ける。
「いやぁ、ついね、三木本君の見事な包丁さばきに目がね……」
 ハンバーグを作るために玉ねぎをみじん切りしていた三木本が、目を細めてこちらを睨む。
「うわぁ、三木本君、睨まないで」
 ちゃんとやるからと、付け合せに使う人参の皮むきを始める。
 本当は照れているだけ。
 そう波多が耳打ちしてくる。
「波多さんは三木本さんの事を良くわかってますね」
 妬けます、と、そう波多に耳打ちを返した。
「馬鹿なこと言ってないで、お前も手ぇ動かせ」
「はい」
 ごつごつとしたジャガイモの皮を剥くのは意外と難しく、どうにか一つだけ剥き終える。
「波多さん、出来ましたよ!!」
 上手に出来たでしょうと波多に見せれば、ふっと鼻で笑われた。
「ま、その調子で、あと一つ剥いちゃいな」
 波多はコンソメのスープを作り、三木本は手際よくハンバーグの形成を終えてフライパンで焼き始めている。
「人参、剥き終えたよ」
「俺もジャガイモの皮、剥き終えました」
「はい。次はジャガイモはくし切り、人参はシャトー切りにします。まずは人参から。適度な大きさにカットしていきます。で、形を整えていきます」
 ゆっくりと形を整えながらカットしていく。
 レストランとかで見る付け合せと同じ形になった。
「すごいねぇ、ワンコちゃん」
「はい!」
「で、水をひたひたに入れて、バター、砂糖、塩を加えて煮ます」
 人参が煮えるまでの間、ジャガイモはレンジで加熱してからバターで焼く。
「焦げ目がついたら言えよ」
「はい」
「三木本、ハンバーグは俺が見ているから、八潮課長とテーブルのセッティングな」
「わかった。課長、こちらに来てもらえますか」
「はぁ、い」
 楽しそうに返事をして三木本の元へと向かう。
「波多さん、やりますねぇ」
「まぁな。三木本も八潮課長も楽しそうでよかったよ」
 そういう波多自身も楽しそうだ。
「よし、ハンバーグはもういいな。人参の方はあと少しで、ジャガイモの方は?」
「どうでしょう?」
「まぁ、これくらいで良いか。よし、盛り付けな」
 皿の上にハンバーグ、付け合せのジャガイモを置き、最後に人参を並べた。
「あれ、ハンバーグのソースは?」
「お前が作るんだよ。ハンバーグを焼いたフライパンにケチャップとソース、後は赤ワインを入れて混ぜる」
 波多の指示通りにフライパンの中へと入れて火を通す。
「わぁ、こんなに簡単に出来るんですね」
「お前、本当に何も知らないんだな」
 ふぅ、と、ため息をつき、
「出来上がったソースをハンバーグにかけて完成だ」
 ハンバーグの上にソースをかけ、テーブルまで運ぶ。
「上手に出来たね」
 と八潮が頭を撫でてくれ、三木本に席に着けと波多と並んで座る。
「課長、お酒を飲まれます?」
「うんん。今日はやめておくよ」
 暖かいうちに食べたいからねとハンバーグを指さし、
「では、ご飯をよそってきますね」
 と炊飯器へとむかい、白米をよそう。
 久世がはじめて炊いた米。いつもよりも美味そうに見えてくる。
「久世君、嬉しそうだねぇ」
「こいつ、自分で米を炊いたもんだから、うまくできて喜んじゃっているんですよ」
 出来て当たり前。そう、こつんと額を叩かれる。
「でも、俺、何にも知らないから」
 大したことをしてなくても、出来たという事がすごく嬉しいのだ。
「久世は小さな子供みたいな」
 そう三木本に言われ、その通りだと波多が頷き、八潮が微笑む。
「酷いです」
 唇を尖らせながら三人を見れば、そう言う所がガキっぽいと笑われた。