寂しがりやの君

君は俺のモノ

 今度は消えぬように、学校で女子に刺繍の指輪の作り方を教えてもらう。刺繍糸は赤を選んだ。
「何編んでるの、総一」
「指輪」
 秀次と恋人同士になったことは電話で冬弥に伝えた。ゆえに贈る相手が誰なのかは気が付いたようだ。
「で、なんで赤い指輪よ」
 それについては指輪の作り方を教えて貰った女子にも聞かれたが、
「赤が好きなんだよ」
 とその時に答えたことと同じ言葉を返す。理由は秀次だけが気づけばいいことだから。
「そうだっけ? まぁ、俺は総一が幸せならそれでいい」
 しつこく聞いてくることもなく、大事にしろよと肩を叩き、冬弥は自分の席へと戻っていく。
 ありがとうな、冬弥。話を聞いてくれたし、報告をしたときも少し泣いていたよな。
 そういう優しいところに、俺は心をすくわれている。
 大切にするよ。秀次も、それに冬弥との友情も。

 昼休みになり、美術室へと向かう。
 ポケットには手作りの赤い指輪が入っている。秀次が来たら一番にこれを贈ろう。
 椅子に腰を掛けて秀次が来るのを待っていたら、すぐにコンビニの袋を手に美術室へとやってくる。
 俺は秀次の側に向かうと、手をとって小指に手作りの指輪をはめた。
「これで消えないだろう?」
 と口角をあげた。
「消えねぇけど、恥ずかしいだろ」
 小指を動かし、照れながら俺を見上げた。
「お揃いのリングを買うまで、それで我慢して」
 いつか本物を、秀次の薬指にはめたいと思っている。つなぎあいたいしな。
「はめねぇからな」
「えぇ、秀次好みの、見つけたんだけど」
 とスマホの画面を秀次に向けると、気に入ったか、画面を食い入るように見つめていた。
 やはり好きか、それ。
「利刀さんから、お勧めの店を教えて貰った」
「え、利刀? なんで」
 利刀さんに教えて貰ったことが不思議なのだろう。そういえば、秀次にはまだ話していなかったな。
「実はさ、従兄が利刀のメディカルトレーナーをしていてな。昔は練習を見学しにつれていってもらっていた」
 羨ましいって顔をしている。まぁ、プロレス好きからしたら、そういう反応を見せるよな。
「教えてくれてもよかっただろ」
「悪い」
 前は会わせろと言われるのが嫌だったが、今は利刀を見て目をキラキラさせる姿を見たくない、と思ってしまうが……、恋人を喜ばせたいと思う気持ちもある。
「今度、従兄に頼んでみるから」
「期待してっからな」
 目をキラキラさせて。なに、その反応は。拗ねるぞ、俺。
「嬉しそうだな」
「言っておくけど、会えるのは嬉しいけど、総一さんが一緒だから、だぞ」
 秀次が、気持ちを浮上させるようなことを口にする。
「まったく。お前は可愛いことを言ってくれるなぁ」
 秀次を後ろから抱きしめ、首のあたりに顔を摺り寄せると、そのまま身を預けてきた。
 それが嬉しくて、喜びをかみしめる。
「イチャイチャタイム」
「なんだ、その恥ずかしネーミング」
「いいだろう、二人きりなんだし」
 秀次の温もりと匂いをかいでいたら、もっと触りたくなってきて、ボタンのシャツを外し始めた。
「で、なんで俺のシャツのボタンを外すんだ?」
 手を掴まれて、止められてしまう。
「上半身を描こうかと」
 本当は触りたいだけなのに、そう言えば大丈夫かとズルい考えをしつつ、傍に置いてあるスケッチブックを広げて見せる。 後頭部の後に弁当のおかず、食いかけのパン、俺の手、唇、シャツの隙間から見える鎖骨……、あ、これはたまに見える鎖骨が厭らしくて、思わず描いてしまったわけだ。
「なんだよこれ」
「え、秀次の手に、唇に、鎖骨、今日はここを」
 と服の隙間から手を入れて胸を撫でる。
「おぉい、誰が触ってイイといった?」
「ん、目の前にあったら触るだろ?」
 特にここ、な。俺は胸を揉んだ。
「総一さん、無い胸を揉むのヤメて欲しいんですけど」
 男も感じると冬弥は言っていたが、秀次は感じないのか。
「弄っているうちに良くなるって言っていたんだけどな」
「へぇ、それって自分ので試したのか? それともそういう相手がいたのかよ」
 ん? もしかして妬いているのか。秀次以外の男にさわりたいとか思ったことは無い。
 ここは誤解のないように、
「冬弥が言っていたから」
 と口にすると、秀次がホッと息をはいた。
 やばいな、妬いてくれたことが嬉しくて顔が笑ってしまう。
「何」
「今、嫉妬したよな」
 だが、秀次は照れからか、素直にそうだとは言ってくれない。
 しかも、
「ともかく、これ以上さわるなら、膝十字固めな」
 と話を戻した。
「わかったよ」
 ひとまず手を離すが、俺が諦めていないと思っているのだろう。
「総一さんは待てを覚えような」
 まるでワンコにマテをさせるように、顔の前に掌を向けてきた。
「おいおい、俺はワンコじゃないぞ」
「前に、匂いを嗅がれたし」
 十分、ワンコっぽかったぞといわれる。確かに、秀次の匂いを嗅ぐのはすきだ。
「ワンワン」
 ふざけて秀次にじゃれつく。首の付け根に鼻を近づけると、くすぐったいか、表情をゆるめた。
 駄目だといいつつも無防備なんだよな、秀次は。だからつい触れたくなるんだ。
「秀次のそういうところだよ、俺が我慢できなくなるのは」
 どういうことだというような顔で俺を見る。
 秀次の頭をかき混ぜるように撫でると、首をぺろりと舐めた。
「うわ、ちょっと」
 頭を押される。
 それくらいでは、やめてやらんぞ。俺は獲物を目の前にした獣の如く、自分の唇を舐める。
「膝十字固めっ」
 向こうも危機を感じたのか、そう口にするが技を掛けてくる気配はない。
「やってほしいのか」
 とからかうと、
「そんなわけあるか」
 そう言いかえす。すっかりと俺のペースだな、秀次。
「隙だらけで、押しに弱くて、少し天然な所、好きだぞ」
 笑顔でそう口にすると、ヘッドロックを掛けてきて、俺はそのまま床に秀次を抑え込んだ。
「総一さん」
 そうくるとは思わなかったようで、焦る秀次に、ワン・ツー・スリーとカウントをとり、
「俺の勝ちだな」
 と口角をあげた。
 秀次があんぐりと口を開けたままかたまっている。間抜けだぞ、その顔。
 よし、それなら我に返るように、
「勝利のキス」
 唇を指でとんと叩き、秀次にキスを促した。
 すると、かたまった表情は柔らかくなり、口元に笑みが浮かぶ。
 そういう意味でも俺の勝ちだな。
「はいはい、おめでとさーん」
 と、秀次が俺の首に腕を回し、勝利のキスをくれた。