姫様、お久しぶりです
食事を終えてからチビたちはお昼寝タイム、俺とライニールは畑仕事をし、アルトと魔王が手合わせをしはじめた。
「魔王様についていけるアルトはすごいな」
ライニールの尻尾が揺れる。先ほどまで手合わせをしていたからアルトの強さを知っている。
そりゃそうだ。アルトは魔王を倒す勇者だもの。
「ライニールも強くてカッコいいぞ」
実際に戦う姿を見た時は鳥肌が立ったもの。
「そっかぁ」
尻尾の揺れが速くなった。照れているな。かわいいやつめ。
その瞬間、剣がこちらに、いやライニールにめがけて飛んできた。
「うおっ」
それをつかむライニール。すげぇ。
「手が滑った」
魔王がこちらに向かって歩いてくる。
その割には一直線に向かってきた気がするのだけど。
耳がぺしょんと垂れている。ライニールが俺に何か言いたげだなぁ。
「ライニール、すごいな。あの剣を掴むとか」
アルトが嬉しそうにライニールのもとに。
「な、ライニール、かっこ……うわ」
カッコいいとは言えなかった。だってさ、魔王の笑顔がこわかったから。
「これくらいは誰でもできるんだぞ、魔王様はもっとすごいしカッコいい、よ」
尻尾が垂れ下がってる! もう、部下をいじめるとか悪い上司だな。
「リッド様、色んな意味で最強なんだから、圧力をかけるのではなく褒めてあげろよな」
「ブレフトが私以外の男を褒めるから」
「貴方が強くてカッコいいのは誰も解っているから改めていう必要はないから。ね、アルト」
「うんうん。リッド様、強くてかっこいい」
よし、これくらい褒めておけば機嫌もなおるよな。
ちらっと魔王を見れば、口元がふよふよとしている。チョロい。
「よし、そろそろお開きにして帰ろう」
魔王の背中を押すと、わかったと顔をこちらに向けた。
今日の食事は魔王の好物ばかりだ。肉より魚が好きとはなぁ。俺が煮魚を作ったときはお替りしたもの。
魚は魔王が釣ったやつ。もちろん魔魚だ。見た目はチョウチンアンコウ。味もアンコウだし捨てるところが無いし。
鍋にして御雑炊まで頂きました。
お腹がいっぱいになったので、魔王に姫様のところへ連れて行ってと頼んだ。
魔王が手を広げる。本当は近くにいればワープはできるはず。
だがここで拒否したら機嫌を損ねてしまうだろうからしかたがないので彼の腕の中におさまる。
ぎゅっと抱きしめられて、スンスンと匂いを嗅ぎ始める。
おい、匂いを嗅いでガッカリするのはお前だぞ? やめなさいよ。
「リッド様」
「素直に腕の中にきたから可愛いなと」
「そういうことなら離せ」
「だめだ。このままワープする」
さらに強く抱きしめられてワープ。魔王の城から姫様の部屋へ場所がかわった。
「リッド様、帰るもしくは鷹の姿になってバルコニーに居てくれ」
魔王が選んだのは鷹の姿になって待つことだった。
きゅっと袖をくちばしでつまむ。くぅ、鷹の姿だと離れがたい。
「ブレフト、来ているのでしょう。中におはいりなさい」
俺たちに気が付いているようで姫様が声をかける。この声を聴くのも懐かしい。
「夜分遅く失礼いたします」
窓を開いて胸に手を当て礼をとる。
「この時間にしか私に会うのは難しいでしょうからかまいません」
使用人が下がり姫様が一人になる時間は就寝前しかない。
「ゴットフリッド王陛下もいらしているのでしょう?」
「はい。鷹の姿になってバルコニーに」
「そうなのね。私との出逢いのこと、お聞きになって」
聞きましたとも。あれには魔王に同情してしまう。
「鷹の姿で貴方のところに遊びに来ていたでしょう?」
「知っていたのですか」
姫様、知っていて黙ってたんだな。もしやさらわれた理由もか!
俺の表情を見て姫様が何かに気が付いたか、掌を合わせて首をちょこんと傾ける。
かわいいけど憎たらしい。
「姫様っ」
「だって、神作家様の薄い本……んん、私、お友達の恋心を応援したかったんですもの」
あれ、今、薄い本とか言わなかったか?
ぎぎぎと姫さんの方へ顔を向ける。
「姫様、いろいろとお聞きしたいことがあるのですが」
「あらあら、何かしら」
なんのこと、みたいな顔をしているけれど誤魔化されないからな。
「まず、姫様も転生者ですよね」
「はい。貴方たちとおなじですわよ」
やっぱり。しかも俺たちも転生者だということを知っていたとか、もしや姫様が関係しているのか?
「それなら、なんて教えてくれなかったのですか」
「あら、貴方はいつ思い出したのですか?」
そう聞かれてアッとなる。姫様の言いたいことに気が付いたからだ。
転生した記憶を思い出したのは姫様の護衛となった頃だ。別の記憶が一気に流れ込んできて頭が割れそうなくらい痛くて倒れてしまったんだ。
俺は転生者でここは大好きなゲームの世界。だけどそんなことを他の人に話せる訳がない。ゲームの世界の住人ですよと話しても信用するところか頭のおかしい奴だと思われてしまうだろう。
姫様だって記憶を取り戻したか解らない俺に貴方は転生者ですなんて言えないだろう。
「すみません」
「解って頂けたら何よりです」
「それにしても姫様はなんでそんなに色々と知っているんです?」
転生前のことを話したことはない。それなのに姫様はわかっていたようだから気になった。
「すでにありえない体験をしている貴方だから何を聞いても驚きませんよね」
「そうですね。マンガや小説のような体験をしているのですから」
神様がでてきて云々なんて展開でも今なら信じるぞ。
「実は神様が同人誌作家をしておりまして」
神様キター!!
「マジか」
「はい、マジです」
うふふ、と口元に手をあてて笑う。
「まさか、神様の作った薄い本、とか」
「その通りですわ」
ぐあぁぁ、神様、なんでよりによってBLなんだよぉぉ。頭を抱える俺に、姫様は良い笑顔を向けた。
「はぁ、俺たちが神様の薄い本に転生したのは事故が原因ですよね」
「そうです。あのバスに神様も乗っていらして、神様は元の場所にそして亡くなった私たちを一緒に連れていってくれたのです」
第二の人生を与えてくれたことに関しては感謝すべきだけど……だけどさぁ。
「あの、ところで神様がかいていた話の内容なんですが」
「アール指定のボーイズラブ小説ですわ」
語尾に幻のハートのカタチが見えた、気がした。
BでLなのは、まぁ、ひとまず。だがアール指定って!
「趣味をとやかく言いたくはありませんが、なんで、なんで魔王とアルトじゃないんですか!」
定番じゃないんですかね。
「ありきたりですわ」
いやいやいや、俺と魔王よりはイイだろうよ。
「儚い美少年でもなく、チートな主人公でもない。それが良いのではないですか」
「俺には何がよいのかわかりません」
そもそも、恋人がいたこともないし、恋愛に縁がない。
「あらあら。嫌でも知ることになりますわよ。この世界の貴方は男性に好かれるのですから」
それ全然嬉しくない。
「マジかよ」
掌で顔を隠してしゃがみこむ俺に、姫様は微笑んで親指を立てた。