無口な彼は甘いものが好き
会社では特にいつもと変わらない。
仕事の話以外、話す事など無く。時折、お菓子を強請られるくらいだ。
だが、たまに林の実家に誘われる。子供たちに菓子を作ってほしいと言う名目でだ。
しかも、この頃は休みの日にも誘いのメールが届くようになった。
それはごく短い内容。
≪結衣と湊が会いたがってる≫
とだけ。
林らしいとクスクスと笑い、今では常連となった小料理屋へと向かう。
「いらっしゃい。あら、利くん。賢ちゃん!」
「わかってる。奥」
居間を指さして中に入るように言われる。
裏手に回り玄関から中へと入った。
「お邪魔します」
「おう」
「利成クンいらっしゃい!」
笑顔でぎゅっと腕にしがみ付く彼女にほっこりと癒される。
「いいなぁ、女の子って」
その言葉に、林が結衣を引き離した。
「駄目だ」
「え、ヤダな、俺、女の子は好きだけどヤるなら男の方が……」
思わず、口から出てしまい、すぐに冗談ですよと笑って誤魔化した。
林はそれに対して何も言わず、
「結衣、姉ちゃんからなんか貰ってこい」
と自分は冷蔵庫へと向かいビールとコップを持ってくる。
「飲むぞ」
「あ、はい」
何も聞かないでいてくれるだけなのか、聞きたくないのでをの話題をスルーするつもりなのか。
どちらにせよ、気持ち悪いと家から追い出されずに済んで良かった。
意識が飛ぶまで飲んだことなど一度もなかった。
狭い布団の中で、まさか林の腕に抱かれて寝ているなんて思わなかった。
「え、えっ、どういう」
「うるさい」
口をふさがれて不機嫌な顔で睨まれる。
「林さん」
「狭いからな」
二つ並んだ布団に林と清宮、そして子供達二人。
「はぁ、そういう事ですか」
「静かしろ」
「はい」
そろりと布団を抜け出して居間へと向かう。
「ご迷惑をお掛けしました」
「気にするな。吸ってもいいか?」
煙草を持ち上げる林に頷く。
「どうぞ」
灰皿を引き寄せて一本咥えると煙草に火をつける。
「ヤるなら男の方が良いと言っていたが、今まで恋人は男だったのか?」
今、ここで聞いてくるとは思わなかった。
ギクッと顔を強張らせ、黙ったままでいる清宮に、林も黙ったままだ。
気まずい。
すると林が清宮をじっと見つめてきて、話をするまで見られっぱなしではないのだろうかと、意を決して口を開く。
「……女性とも付き合いましたよ。でも長く続かなくて。セフレは男ばかり」
じっとこちらからも見返せば、そうか、と呟き。
「なら、するか?」
と何事でも無いように言われた。
「え?」
目を瞬かせる。
今、一体、何を言ったのだろう。
「俺とでは嫌か」
ふぅ、と、紫煙をはき出し、灰皿に煙草を揉み消す。
「いや、そういう事じゃなくて。男の人とするの平気なんですか」
「さぁ、どうだろうな」
「もしかして興味本位、とか」
「相手がだれでも良いのなら、俺でも良いだろう?」
それはもしかして、そういう意味なのか。
「もしかして合コンの日、俺を誘ったのもそういう事ですか」
「そういう事とはなんだ?」
「独占欲」
「あぁ、成程な。そうなるのか」
ぎゅっと抱きしめると太い腕がその身を抱きしめ返す。
「俺のを受け入れてくれるってことですか」
後ろに入れるのだと伝えれば、目をパチパチをし、
「あ……、そうか。入るかどうかわからないがやってみればいい」
「やってみればいいって」
「お前なら、良い」
流石にそこまではしてもらう理由がない。
だが、林が自分にどんな姿を見せるのか気になる。
「今は擦りあうだけでどうでしょう?」
「それでいいなら」
自分のモノを見て嫌になったならそれはそれでいい。ただの同僚として付き合っていくだけだ。
「これをみて続ける気があるのなら、貴方もズボンを脱いでください」
すると林は躊躇なくズボンを脱ぎ、清宮の腰へと腕を回した。
「わっ」
「お前が俺に跨った方がいいだろう?」
「それって林さんより細いからですか? 俺、意外と鍛えてますよ」
「それでも、俺よりは軽い」
一夜の相手に身体を見て幻滅されたくないというのもあったし、以前好きだったあの人が安心てくれるからというのもあった。
結局、その理由もきけないままだったなと、目つきの悪いあの人の姿を思い浮かべて、頭の中から振り払うように頭を振るう。
「違うって?」
「あ、いいえ。林さんはガタイが良いですものね」
決して太っている訳でない。だが、自分よりも上にも横にも大きい。
「やっぱ、アレもおっきいですね」
「そうか?」
じっと股間をみられ、そうだなと納得された。
「言っときますけど、俺のが小さいってわけじゃないですからね」
「ははっ、必死だな」
笑い声をあげる林に清宮は驚く。意外と可愛い笑顔に胸がきゅっとなる。
「もうっ」
林のモノに手を添えて擦りあげれば、びくっと身体がふるえて口元に手を当てる。
「ふ、きよみや、お前のも」
「そうでしたね」
ぐりっと押し付けて互いのをこすりあわせる。
「んっ、あつい」
「清宮、俺のシャツを噛め」
そうすれば声がもれないと言われ、それよりもと唇をふさぐ。
林の口内は、先ほどまで吸っていた煙草の味がする。
「んふ」
くちゅくちゅと上から下から水音がし、かたくなったモノは感じやすく、気持ち良さに高揚する。
それは林も同じで、びくびくと震えながら大きなものをさらに大きくさせ、だらだらと涎を垂らす。
「ふぁ」
互いの放ったもので太腿が濡れる。
大きく息を吐き、肩に額をくっつければ、髪を撫でてくれる。
「良かったぞ」
「俺もです」
林の上から降りてズボンを穿く。
「また、したい」
手を握られ、じっと自分を見つめる林に、頷いてこたえる。
今度は声を我慢することなく抱き合いたいと思ってしまったから。
「戻るか」
「そうですね」
布団にはいり、良く寝ている子供たちを眺める。
「二人ともぐっすりですね」
「起きなくてよかったな」
そう、口を指さされて、声の事を言われているのだと気がついて頬が熱くなる。
「変な事言わないでくだ……、んっ」
うるさいといわんばかりに口づけでふさぎ、腕の中へと抱きかえられる。
「おやすみ」
唇が離れ、そういうと腕が離れて背を向ける。
少しだけ寂しさを感じてその背中にくっつけば、林は何も言わずにそのままにさせてくれた。
次の日、抱き枕状態になっており、その腕から懸命に抜け出る。
既に起きて朝食の準備をしている沙世に挨拶をする。
「あらあら、もしかして賢ちゃんの寝相が悪くて起きちゃったかしら?」
「抱き枕状態になってました」
と笑いながら言えば、大変だったわねと沙世もクスクスと笑い声をあげる。
「あの子が実家にお友達を泊めるなんてはじめてなのよ。利成君の事を余程気に入っているのね」
「そうなんですか?」
それが素直に嬉しいと思えるほどに清宮も林の事が好きだ。
「これからも仲良くしてあげてね。あの子、あんなだから心配なの」
「はい」
「二人で何を話しているんだ」
「あら、賢ちゃんおはよう」
「おはようございます」
眠そうに眼を擦りながら背中を丸めて台所の出入り口に立つ。
「うふふ、賢ちゃんは台所に立ち入り禁止でしょ。顔を洗ってらっしゃいな。利成君、お手伝いしてくれるかしら?」
「はい」
林も沙世には逆らえない様で素直に洗面所へと向かっていく。
その間、清宮は朝ご飯の準備の手伝いをする。
沙世の作る朝食は絶品だった。
朝から焼き立てのだし巻き卵が食べれるなんて。
「清宮が居ると朝食が豪華だ」
「あらあら、賢ちゃん?」
ニッコリ笑っているけど目が笑ってない。
「あー、賢介クン、お母さんを怒らせるようなこと言って」
「あははは」
こんなに楽しい朝食は久しぶりだ。
ふ、と、林と目が合い、彼は優しく微笑んでいた。
それにギクッと肩を強張らせ、熱くなる顔を下へと向ける。
やたらにかっこよく見えるのはどうしてだろう。
意識してしまうから食べる方に集中すれば、のどに詰まり咽てしまった。
「大丈夫?」
沙世が水を持ってきてくれ、結衣が背中をさすってくれる。
「げほ、すみません、もう、だいじょうぶ……」
「ゆっくり食えよ」
と、いつもの変わらぬ愛想のない顔が近く。何故かその表情にホッとする。
「美味しいものでがっついちゃいました」
「あらあら、嬉しいわぁ」
でも、ゆっくり良く噛んで食べなさいねと、小さい子に言うように沙世に言われてしまう。
それを子供たちに笑われ、恥ずかしいと手で顔を覆った。