護衛(モブ)に転生したが、魔王に好かれて困ってます

狼兄弟

 ゲームでの魔物は魔王が配下に命じて人を襲う時に使役したり道中で襲ってくるものだが、仲間というわけではなく彼らにとって食料にする、悪さをするものは退治をするそうだ。
 魔王には剣と頭脳、忠臣がふたりいる。ひとりはシーラ、そしてもう一人がライニールだ。
 アルトのパーティの前に立ちはだかる銀と白の毛並みを持つ狼・ライニール。敵なのだが愛嬌があり仲間思いのアツいヤツなんだ。
 ゲームでは中盤から登場。戦うのは二度。サブストーリーで仲間として戦うこともある。アルトのことも魔王と対決していなければ友達になれていた、そう思っていたんだけどさ、実際に会って話したら友達になれました。やったね。
「ブレ兄、きたぞ」
 ライニールは魔物の討伐隊を率いている隊長だから、討伐に出かける時は歳の離れた弟と妹を連れてくる。
 これがまた可愛いんだなぁ。動画サイトで動物の子供を見るとほにゃ~と優しい気持ちになるじゃん? まさにアレ!
 もうね、ずっと撫でくりまわしたくなるだけど、やりすぎるとライニールに怒られちゃうからやらない。
「いらっしゃい、ライニール。チビたち待ってたよぉ」
 でも、デレデレっとするのはやめられない。もふもふ大好きだからな。
 灰色の毛並みの男の子はベック。白い毛並みの女の子はモア。双子だ。
 ふたりとも遊びに来ると俺に抱き着いてくれるんだよね。ふぁぁ、かンわいぃぃ。
「ブレ兄、おやつ」
 用意してあるぞ。骨の形にくりぬいたミルククッキーを。
 椅子に座らせてクッキーと蜂蜜入りのミルクを用意する。それを目の前にしてふたりの尻尾が勢いよく振られる。
「いただきますをしてからな」
「はーい。いただきます」
 クッキーを食べる姿を優し気な目をして眺めている。アニキしているなぁ、ライニール。
「ブレフト、私には?」
 おい、俺が癒されているときに邪魔すんじゃねえよ。
 スンとしながら魔王に紅茶を入れて渡す。ここで作っている紅茶はすっごく美味いんだよなぁ。
「ブレフトって魔王様に冷たいよな」
「お前らにとって魔王様はピラミットの頂点だろうけど俺にとっては一番下だから」
 地面に木の枝で三角形を作ってチビはここ、ライニールはここ、魔王はここと指していく。
「俺、魔王様より上なの」
 何故か尻尾がぶわりとたちあがってる。
 なんだよ、チビ達よりは少し下だけど頂点に近い所を指したのに。ここは尻尾を振って喜ぶところじゃね?
「ほう、なるほど?」
 なんか威圧感あるなぁ。ちらりとそちらへ視線を向けると魔王が怖い笑みを浮かべていた。
 チビたちが尻尾を丸めてるじゃないか。
「魔王様、やめなさいよ」
 口の中にクッキーを一枚押し込んでやると威圧感がなくなった。
 うんうん、さすが俺が焼いたクッキー。効果てき面。美味しいものを食べると幸せな気分になるものな。
「もう一枚、食べさせてくれないか?」
 口を開いてアーンを待つ魔王。チビたちを怖がらせないために口の中にクッキーを入れてやる。そして気が付く。
 アーンって! 俺、なにやってんだよ。
「自分で食え」
 魔王の方へ器を押すと残念だとクッキーを手に取った。
「ほら、チビたち。大人げない魔王様なんて無視して沢山食えよ」
「はーい」
 かりかり、こりこり。
 うん、ワンコのかりかりみたいな咀嚼音。約一名の音が近くて鬱陶しいんですけど。
 それを無視してチビたちを眺める。
「ねー、ねー、ブレ兄、一週間後に僕達冒険にでるんだけど、お菓子を作ってほしい」
「冒険に?」
 どういうことだとライニールを見ると、なんでも六歳の誕生日に近くの森に冒険に出かけるのだとか。
 ゲームでゴートラン島国の推奨レベルは40だったハズ。
 子供たちのレベルは1だよな。
 実は俺にはステータスを見るためのアイテムがある。
 首にぶらさがっているのは素敵なアクセサリーではない。
 フレコンのコントローラーだ。上下左右、ABボタン、セレクト、スタートのボタンがついている。
 そしてフレコンとは、正式名称はフレンドコンピューターというゲーム機があった。友達と一緒に遊ぼうっていみで名付けたそうだ。カセットタイプのソフトを差し込むとゲームをプレイすることができる。
 16bitの画像とピコピコ音のサウンドがたまらない、と話しがそれたが、フレコンのコントローラーの小さい版を俺は記憶を思い出した時に握っていた。
 セレクトボタンでメニューが表示され、ステータスを選択すると俺の強さが表示される。
 俺以外の人のステータスを見たいときは、メニューで敵のステータスを選択、カーソルで対象を選んでAボタンで決定。
 前にこっそりと見たことがあるから、たしかそのはずだが。
 レベル1のチビが行けるのだから、そんなに敵は強くない……もしかして俺でもイケるか?
「ブレストも行きたいのか?」
 うずうずとしていたのがバレたか。隣の魔王がそう俺に聞く。
「え、でも六歳の子しか行けないんだよな」
「別にかまわない。危険な場所でもないから一緒に行ってこい」
 うそ、いいの? 冒険しちゃうよ!
 アルトファンタジアの冒険を体験できちゃなんて嬉しすぎるっ。
「よし、チビ達に美味しいおやつと弁当を作ってやるからな」
「ふ、かわいい。キスしたい」
 なんか魔王がへんな言葉を呟いているけれど今の俺は最高に気分がイイ。だから聞き流してやろう。
 チビたちが楽しみだねと俺の側に来てキャッキャと跳ね回る。
 俺も一緒にキャッキャしたいけど、流石にオッサンだからやめとくわ。ほら、絵面がよろしくないしね。