冒険に行こう
やってまいりました旅たちの日。天気は快晴。冒険日和だわ。
冒険に出かけるための準備は前もってしておいた。だって唯一の大人は俺だけだもの。
俺のリュックの中にはお弁当とおやつ以外に、怪我や具合が悪くなった時のためにポーション、ばんそうこう、マップ、タオル、着替え……そのほかに色々つめようとしたけれど入りきらなかった。
「随分と荷物を持ったのだな」
「そうかな」
マンガや小説で、荷物持ちがでてくる話しがあるくらいだ。今日の俺はそのポジションだな。
「では、待ち合わせの場所まで送ろう」
「頼む」
魔法陣が広がって体がふっと浮いたと思ったら別の場所へと移動している。
魔力の高い者にしか使えないワープの呪文。
アルトがレベル30で覚える呪文だ。
「ブレ兄」
チビたちが俺を見て寄ってくる。今日の旅の仲間たちだ。
「気を付けていくのだぞ」
「はーい魔王様」
よいお返事のちびたち。俺も同じようにはーいと返事をしておいた。
「ブレ兄、楽しみだね」
参加するメンバーは三人。ベックとモアの他に蝙蝠の羽みたいのが背中にある男の子がいる。
「おうっ」
向かう場所は町の方にある森。ゲームでは町のアイコンの周りにある木の部分。
あそこが今日の目的地だ。
子供達でも行ける場所だというから魔物のレベルも低いのだろう、なんて思い込んではいけません。
大事なことだからもう一度。思い込んではいけません。だってここはラスボスがいる島なのだから。
「ぎゃぁぁぁ、ドラゴンモドキぃぃぃっ!」
レベル30はある魔物だ。俺のレベルが20くらい。チビたちは1。炎のブレス攻撃されたら完全にアウトだぜ。
「へぇ、ブレ兄、詳しいね」
何、のほほんとしているのよ、この子たちはっ。
「逃げるぞ」
「え、もっと近くで見たい」
危機感! 近くにいったらこんがり焼きにされちゃうぞ。
「ダメ、絶対にダメ。言うこと聞かないとお弁当とおやつを食べさせないからな」
「えぇっ、わかった。逃げる」
よし、逃げるぞ。
走り始めたら、あれれぇ、子供たちの姿が小さくなっちゃった。
いや、子供たちの足、速すぎ。
俺は……、ドラゴンモドキがギラギラとした目で見てる。あ、これ、ターゲットにされてるわ。
はい、詰んだ。
痛さを感じぬように一撃でお願いします。
スーと目を閉じて神様に祈るポーズをする。
だがいつまでも痛みがやってこない。かわりにふにゃりと柔らかい感触が唇に。そっと目を開けるとイケメンのアップが。
て、おい、ほっぺにチューするなよっ!
「何でいるんだよ。あと、ドラゴンモドキは」
「ライニールが倒した」
おお、流石だぜ。じゃない!
「お前らがいることも」
「子供たちの冒険を見守るのは大人の役目だ」
なるほど、確かにレベル1の子供たちが来る場所じゃない。それは理解できたが、
「そもそも、なんでそんな危険な場所に子供だけで行かせるんだよ」
「危ない場所だと覚えさせるためだ」
実際に体験させて覚えさせるって、まぁ、魔王とかライニールのような強い大人が見守っているのなら安心かもだけど、俺からしてみたらありえない方法だ。
「きちんと教えてから一緒に行くとかは?」
「興味を持たせて勝手に見に行かれると逆に危ない」
「あー、なるほど」
ドラゴン、モドキだけど、確かに興味がわくか。
「ここは目的地である池までなら安全な方なんだ。それに何かあった時に俺たちがいる」
「そうだな。二人がいれば安全だって、さっき体験したものな」
「さて、池まではもうすぐだ。行くぞ」
「わかった」
池はとても綺麗な場所だった。
ゲームのマップ上では木でしかない場所にこんな場所があるなんて。癒されるわ。
「チビども、弁当」
「わーい」
「魔王達の分はないぞ」
俺の分を半分にわけても足りないだろうし。
「大丈夫だ。ライニールが持っている」
だから弁当を欲しがったのか。
風呂敷を開くと弁当が二つ。そのほかにおにぎりが6つはいっていた。
おにぎりはシーラの分しか作っていない。沢山握ったから貰ってきたのかと思いきや、
「あぁ。おにぎりはチビたちに作ってやるから握れるんだ」
という。ちなみに中身は俺がライニールの母親にお裾分けをした肉みそだそうだ。
「さて、愛妻弁当を頂こう」
「おい、愛妻弁当じゃないから」
しれっと言うなよ。俺は妻じゃないぞ。
「あいさいべんとう~」
うん、チビたちが言うと可愛くていいな。
いただきますと手を合わせてふたをあける。
中身は子供が好きなメニュー。ミニハンバーグにスパゲティ、甘い卵焼き。この三つを入れるとチビたちのテンションがあがる。
中身を見て喜ぶ姿を微笑ましく眺めていると、魔王と目が合った。見てんじゃねぇよ、そんな優しい顔して。
頬が熱くなり手で自分の顔を扇いだ。
お昼ご飯をすませてゆっくりしてから家に帰る。
帰りにも会いましたよ、ドラゴンモドキ。後はウッドマジシャン。どっちも同じレベル。俺達じゃ手も足も出ないからライニールと魔王が戦うのを眺めていた。
それはそれで楽しかったよ。ふたりとも強いから。
悔しいくらいにかっこよかったけれど、本人には絶対に言わないからねっ!